アットホーム・ダッド

最終更新: 2026/1/27

概要#

アットホーム・ダッド(At-Home Dad)とは、主に家庭内で育児や家事を担当し、配偶者が主に家計を支える家庭形態における父親を指す言葉である。専業主夫、主夫と呼ばれることもある。この形態は、従来の性別役割分業に変化をもたらす現代社会の動向を反映しており、世界的に増加傾向にある [1]

歴史・背景#

伝統的な社会において、男性は「稼ぎ主(breadwinner)」として家庭外で働き、女性は「家庭の管理者(homemaker)」として家庭内で育児や家事を担う性別役割分業が一般的であった [2]。しかし、20世紀後半に入り、女性の社会進出が進み、男女平等意識が高まるにつれて、この役割分担に変化が見られるようになった。

特に1970年代以降、先進国を中心に女性の高等教育進学率や労働参加率が上昇し、多くの家庭で夫婦共働きが一般的となった。この流れの中で、夫婦のキャリアプランや収入、育児に対する価値観の変化から、父親が主体的に家庭に入り、育児や家事を担当するケースが徐々に増加し始めた。1990年代以降は、男性の育児休業取得を促進する法制度の整備や、男性の育児参加を肯定的に捉える社会的な機運の高まりも、アットホーム・ダッドの増加を後押ししている [3]

主要な内容#

役割と責任#

アットホーム・ダッドの主な役割は、子どもの世話、教育、家事全般(料理、掃除、洗濯)、そして家庭運営である。これには、子どもの学校や習い事への送迎、遊び相手、病気の際の看病なども含まれる。従来の専業主婦が担ってきた役割と本質的に大きな違いはないが、父親がこれらの役割を担うことで、家庭内の力学や子どもの成長に独自の側面が生じると考えられている [4]

増加の背景にある要因#

アットホーム・ダッドの増加には、複数の要因が絡み合っている。

  • 女性のキャリア志向と収入向上: 妻が夫よりも高収入である場合や、妻のキャリア継続を優先したいという夫婦の合意がある場合に、夫が家庭に入る選択をすることがある [5]
  • 男性の育児意識の変化: 現代の父親は、育児に対してより積極的で、子どもとの時間を大切にしたいと考える傾向が強まっている。ワークライフバランスを重視する価値観の広がりも影響している [6]
  • 経済的要因: 景気変動や失業、あるいは配偶者の安定した収入がある場合など、経済的な理由から夫が家庭に入ることが選択されるケースもある。
  • 社会制度の変化: 育児休業制度の充実や、男性の育児参加を奨励する政策が、父親が育児に専念しやすい環境を整えている。

経験する課題とメリット#

アットホーム・ダッドは、その役割の特殊性から、様々な課題とメリットを経験する。

課題#

  • 社会的孤立: 従来の育児コミュニティは母親が中心であり、父親が参加しにくいと感じる場合がある。同じ立場の父親との交流機会が少ないことによる孤立感が生じやすい [7]
  • 性別役割分業意識との葛藤: 社会や家族からの「男は仕事をするもの」という無意識のプレッシャーや偏見に直面することがある。自身のアイデンティティと役割の間に葛藤を感じるケースも少なくない。
  • キャリアの中断: 家庭に入ることで、自身のキャリアが中断されたり、将来の再就職に影響が出たりする可能性を懸念する声もある。
  • 育児・家事スキルへの不安: 育児や家事の経験が少ない場合、そのスキルや知識の不足からくる不安を感じることがある。

メリット#

  • 子どもとの絆の深化: 長時間子どもと接することで、子どもとの間に強い絆を築くことができる。子どもの成長を間近で見守れる喜びも大きい。
  • 配偶者のキャリア支援: 配偶者が安心してキャリアを継続できる環境を提供し、家庭全体の経済的安定に貢献できる。
  • 新たなスキルの習得: 育児や家事を通じて、問題解決能力、マルチタスク処理能力、共感力など、新たなスキルを習得できる。
  • 性別役割分業の打破: 伝統的な性別役割分業にとらわれない生き方を実践することで、社会全体のジェンダー平等推進に貢献する。

関連事項#

世界各国の状況#

アットホーム・ダッドの割合は国によって異なるが、北欧諸国やカナダ、オーストラリアなどでは比較的高い傾向にある [8]。これらの国々では、男性の育児参加を奨励する政策や社会的な受容が進んでいるためと考えられる。日本においても、男性の育児休業取得率は徐々に上昇しており、アットホーム・ダッドという選択肢が認識されつつある [9]

メディアでの描かれ方#

アットホーム・ダッドは、映画やテレビドラマ、書籍などで取り上げられる機会が増えている。初期の作品ではコミカルな描かれ方が多かったが、近年では父親が育児に奮闘する姿や、家族との絆を深める様子がより深く、リアルに描かれるようになっている。これにより、社会におけるアットホーム・ダッドへの理解と共感を深める効果も期待される [10]

関連する概念#

  • イクメン:育児に積極的に関わる男性を指す言葉。アットホーム・ダッドはイクメンの一形態とも言える。
  • ワークライフバランス:仕事と私生活の調和を目指す考え方。アットホーム・ダッドは、このバランスを重視した結果として選択されるケースが多い。
  • ジェンダー平等:男女が性別に関わらず、平等な機会と権利を持つ社会を目指す考え方。アットホーム・ダッドの増加は、ジェンダー平等社会の実現に向けた一歩と見なされる。

脚注

  1. Pew Research Center. "Parenting in America: Outlook, Worries, Aspirations About Children’s Lives." 2015.
  2. Parsons, Talcott, and Robert F. Bales. "Family, Socialization and Interaction Process." Free Press, 1955.
  3. OECD. "Babies and Bosses: Reconciling Work and Family Life." 2007.
  4. Doucet, Andrea. "Do Men Mother?: Fathering, Care, and Domestic Responsibility." University of Toronto Press, 2006.
  5. Stone, Pamela. "Opting Out?: Why Women Really Quit Careers and Stay Home." University of California Press, 2007.
  6. Pleck, Joseph H., and Linda Levine. "Adult Men's Family Roles: A Review of the Literature." National Council on Family Relations, 1981.
  7. Russell, Graeme. "The Changing Role of Fathers?" In "The Handbook of Fatherhood," edited by Michael E. Lamb, Lawrence Erlbaum Associates, 2004.
  8. European Commission. "The situation of fathers in the EU." 2017.
  9. 厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」2023年。
  10. Coltrane, Scott. "Family Man: Fatherhood, Housework, and Gender Equity." Oxford University Press, 1996.

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