当たり屋グループ

最終更新: 2026/1/22

概要#

当たり屋グループとは、意図的に交通事故を誘発し、その事故によって発生した損害賠償金や保険金を不当に詐取することを目的とする組織的犯罪集団を指す俗称である。個人の当たり屋行為とは異なり、役割分担や計画性、反復性が特徴とされる。

歴史・背景#

当たり屋行為そのものは、自動車の普及以前から、荷馬車や人力車、鉄道車両などを用いて行われていたとされる。交通機関の発達とともに、その手口も変化し、特に自動車が一般に普及し、自動車保険制度が確立されて以降、保険金詐欺の一環として組織的な当たり屋行為が出現したと考えられている。

日本では、高度経済成長期以降のモータリゼーションの進展と、それに伴う交通事故の増加、そして自動車保険の普及が、当たり屋グループの活動を助長する背景となった。特に1980年代から1990年代にかけては、暴力団などの反社会的勢力が資金源の一つとして、組織的な当たり屋行為に関与するケースが頻繁に報じられた。彼らは、巧妙な手口で事故を偽装し、保険会社や加害者から多額の金銭を詐取していたとされる [1]

近年では、ドライブレコーダーの普及や警察・保険会社の取り締まり強化により、大規模な組織的当たり屋グループの摘発事例は減少傾向にあるとされている。しかし、手口の巧妙化や、一般人を巻き込む形での小規模な詐欺行為は依然として存在すると考えられる。

主要な内容#

当たり屋グループの活動は、以下のような特徴を持つ。

組織性#

個人の当たり屋行為と異なり、複数の人間が役割分担して犯行に及ぶ。主な役割としては、以下のものが挙げられる。

  • 運転手(加害者役): 事故を起こす車両を運転する。
  • 被害者役: 事故に遭う車両や歩行者を演じる。場合によっては、複数の人間が同乗者として搭乗し、負傷の程度を偽装することもある。
  • 示談交渉役: 事故後の示談交渉や保険会社とのやり取りを担当する。法律や保険制度に関する知識を持つ者が担当する場合が多い。
  • 手配師: 事故車両や偽装工作に必要な物品の手配、メンバーの募集などを行う。

手口#

当たり屋グループの手口は多岐にわたるが、主なものとしては以下の類型が挙げられる [2]

  1. 追突事故誘発型:
    • 急ブレーキ: 前方を走行する当たり屋車両が、後続車との車間距離が十分でない状況で意図的に急ブレーキをかけ、追突事故を誘発する。
    • 幅寄せ・進路妨害: 進路変更をしようとする車両に対し、故意に幅寄せや進路妨害を行い、接触事故を誘発する。
  2. 接触事故偽装型:
    • 死角利用: 加害車両の死角に入り込み、接触したかのように見せかける。
    • ミラー接触: 狭い道やすれ違いざまに、サイドミラーを故意に接触させる。
    • 自転車・歩行者による飛び出し: 交通量の多い場所や駐車場などで、自転車や歩行者が意図的に車両の前に飛び出し、接触事故を偽装する。
  3. 停車中の事故偽装型:
    • 当て逃げ偽装: 駐車場などで、停車中の車両に故意に傷をつけ、後から「当て逃げされた」と主張し、示談金や修理費用を要求する。
  4. 偽装工作:
    • 損傷の捏造: 事故前から存在した車両の傷を、今回の事故によるものと主張する。
    • 負傷の偽装: 軽微な事故であるにもかかわらず、重篤な負傷を装い、長期にわたる治療費や慰謝料を請求する。

これらの手口は、被害者が事故の状況を正確に把握しにくい状況や、示談で済ませたいという心理につけ込む形で実行されることが多い。

被害と影響#

当たり屋グループによる被害は、金銭的なものに留まらない。

  • 金銭的被害: 損害賠償金、修理費用、治療費、慰謝料などの名目で不当に金銭を詐取される。自動車保険を利用した場合、保険料の増加につながることもある。
  • 精神的負担: 交通事故を起こしたという罪悪感や、相手が当たり屋であったことへの怒り、警察や保険会社とのやり取りによるストレスなど、精神的な負担が大きい。
  • 社会的な影響: 自動車保険の保険料高騰の一因となったり、交通事故に対する不信感を醸成したりするなど、社会全体に悪影響を及ぼす。

関連事項#

法的措置#

当たり屋行為は、刑法上の詐欺罪(刑法246条)に該当する。また、事故を偽装するために故意に車両を損壊させた場合は、器物損壊罪(刑法261条)や、保険金詐欺に加担した場合は保険業法違反に問われる可能性もある。組織的な犯行であれば、暴力団対策法組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織犯罪処罰法)が適用されることもある [3]

対策#

被害に遭わない、あるいは被害を最小限に抑えるための対策として、以下の点が挙げられる。

  • ドライブレコーダーの装着: 事故発生時の状況を客観的に記録できるため、当たり屋行為の証拠として非常に有効である。近年は全方位を記録できるものや、駐車中も監視する機能を持つものが普及している。
  • 車間距離の確保と安全運転: 急ブレーキによる追突事故を回避するため、十分な車間距離を保ち、周囲の状況に注意して運転することが重要である。
  • 事故現場での対応:
    • 安易な示談に応じない。
    • 警察への連絡を怠らない(軽微な事故でも必ず警察を呼ぶ)。
    • 保険会社へ速やかに連絡する。
    • 相手の連絡先、氏名、住所、車両情報(ナンバープレートなど)、保険会社などを確認する。
    • 事故現場の状況を写真や動画で記録する。
    • 目撃者がいれば証言を求める。
    • その場で金銭を支払わない。
  • 不審な兆候への注意:
    • 相手がやたらと高圧的である、または逆に妙に冷静で示談を急かす。
    • 軽微な事故であるにもかかわらず、高額な治療費や修理費用を要求する。
    • 事故発生直後から、相手の同乗者が負傷を大げさにアピールする。
    • 相手の車両に事故前から存在するような不自然な損傷がある。

類似の犯罪#

当たり屋グループの行為は、広義の保険金詐欺の一種である。他にも、虚偽の火災や盗難を装って保険金を詐取する手口や、実際に発生した事故の被害を過大に申告する手口などがある。これらの犯罪は、いずれも保険制度の信頼性を損ない、健全な社会経済活動を阻害するものである。

脚注

  1. 警察庁「暴力団対策の推進」2023年。
  2. 損害保険料率算出機構「自動車保険の不正請求対策について」2022年。
  3. 法務省「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」e-Gov法令検索。

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